鎌倉Style

鶴岡八幡宮の裏手に広がる「雪ノ下」「西御門」エリアは「大倉御所」と呼ばれ、古くから鎌倉の文人たちに愛され、文化の拠点となってきた場所です。

今回の「鎌倉 Style」は、そんな雪ノ下に引き寄せられ、この街で自分らしい表現を紡ぐ人々を訪ねました。本に囲まれたカフェ、地域の風景を映す一枚の布、そして海辺の石に描かれるイラスト。自由に流れながらも、人と人をつなぐ力を持つ「言葉」たちに出会う、心豊かな街歩きへ出かけませんか。

文人の町・鎌倉スピリットを受け継ぎ、詩文化の新たな発信地となっている「カフェ エチカ」。香り高いコーヒーをいただきながら、店主・千田(ちだ)哲也さんの静かな情熱を伺いました。

店主・千田さん

にぎやかな小町通りの一角に、文学の街・鎌倉のムードを堪能できる名店があります。少し薄暗い階段を上ってドアを開けると、壁一面に本が並び、まるで文学好きの友人の部屋に招かれたよう。古典から現代まで国内外の作家による詩集ともに、絵画や演劇の小道具なども飾られています。

「CAFÉ ETHICA」の看板
(左)「CAFÉ ETHICA」の看板と、ランチやスイーツのメニュー写真が目印。看板の奥にある階段から、2階へ上がる
(右)カウンター越しの千田さん。言葉と音楽が溶け合う、特別な場所
CAFÉ ETHICA店内
壁一面の書棚には本がいっぱい。詩集や哲学書を中心に、古典から現代まで世界各国の名著が集まっている
店主の千田さん
店主の千田さん。トレードマークの帽子は、高校生のときから愛好している必須アイテムなのだとか
本棚には彫刻や絵画も
本棚には彫刻や絵画も。店名の由来にまつわる品もひっそり飾られている

「こだわらず、好きなものを集めただけですよ」 とほほ笑むのは、店主の千田さん。トレードマークの帽子をかぶり、心地よい低音ボイスで紡ぐ軽妙な言葉たちが、この空間の居心地の良さをデザインしています。夜はバーとしても営業する同店には地元住民のファンも多く、クリエイターの交流やライブ活動の拠点ともなっています。 「鎌倉に集まってくる人は、東京にはない“詩的なもの”を求めている気がします」 。そう語る千田さん自身も、北海道から上京し、演劇の世界を経てこの街にたどり着いた一人です。

そんな千田さんには、「KAMAKURA POETRY FESTIVAL 詩を(通称:詩をフェス)」の発起人でもあります。 令和7年に第1回が開催された「詩をフェス」は、書店やギャラリー、飲食店など50を超えるスポットが協力し、大盛況となりました。古書市や朗読会、トークイベント、さらには里山を歩く吟行まで、詩にまつわる数々の試みが街のあちこちで同時多発的に開かれました。

詩をフェス2026チラシ
昨年、鎌倉のみならず日本中の文学愛好家の間で話題を呼んだ「詩をフェス」。第二弾となる今回にも、期待が集まっている
静かにジャズ音楽が流れる店内で、本に囲まれながら千田さんと静かに語り合えるのも「カフェ エチカ」の魅力
谷川俊太郎さんの詩集
鎌倉にゆかりのある詩人・谷川俊太郎さんの詩集も。第一回「詩をフェス」では、谷川俊太郎さんの写真展や朗読会も開催された
お気に入りの一冊に浸るひととき
コーヒーとスイーツを味わいながら、お気に入りの一冊に浸るひととき

今年のテーマは「詩を持って、街に出よう」。寺山修司の名著へのオマージュも込められたこの言葉通り、訪れた人が本を片手に鎌倉の小路を回遊できる仕組みを構想しています。 「詩とは、心と心の触れ合いから生まれる“とっておきの言葉”」と千田さんは言います。 「ポップスの歌詞や広告のコピー、あるいは大切な友人からの何気ない一言――詩は誰にとっても身近なものです。このフェスが、言葉を受け取る側を育むような鎌倉の新しい文化になっていけばうれしいです」。

千田さんは、詩とコーヒーの共通点を「生きるための必需品ではない、けれど私の暮らしには欠かせないもの」と表現します。 提供するのは、深いりの豆を丁寧にネルドリップで入れた、こっくりと味わい深い一杯です。

慣れた手つきで、一杯ずつ丁寧にドリップする千田さん。出身地の北海道では、焙煎(ばいせん)にこだわるコーヒー文化が身近にあったのだとか
コーヒーを頂くナビゲーターの後藤さん
一口目からインパクトのある、深い味わい。コーヒーを愛する人なら、足を運ぶ価値がある一杯
店内で提供するスイーツは、鎌倉の人ならおなじみの「パティスリーR」のケーキ
CAFÉ ETHICA外観
観光客や修学旅行生でにぎわう小町通りの一角にある。1階部分はお土産屋さん

「デッサンに例えるなら、ペーパーフィルターは平均的にすっきり仕上げられる鉛筆画。ネルドリップは、描き手のタッチがそのまま映る木炭画」と千田さん。 その日によって表情を変える一期一会のコーヒーを、本に囲まれて味わう時間は、何よりのぜいたくです。 今日も“詩的なもの”を求める人々が静かに階段を上り、カフェ エチカの扉を開けます。

カフェ エチカ

◎住所/〒248-0005 鎌倉市雪ノ下1-4-32 2F
◎アクセス/JR横須賀線・江ノ島電鉄「鎌倉駅」東口より徒歩8分(小町通り奥、鶴岡八幡宮近く)
◎営業時間/11:30〜22:00(L.O. 21:00)※イベント等により変動する場合があります
◎定休日/無休
◎インスタグラム/https://www.instagram.com/cafe_ethica/
◎イベント情報/KAMAKURA POETRY FESTIVAL2026 詩をフェス 10月に開催決定
https://www.instagram.com/siofest.kamakura/


暮らしに彩りを与えるテキスタイル。雪ノ下在住のテキスタイル・プロデューサー伊藤眞依子さんは、布を通して鎌倉をはじめ各地の「街のストーリー」を伝えています。

鎌倉・雪ノ下の住宅街にあるテキスタイル研究所「Casa de paño」。オーナーの伊藤眞依子さんが展示やワークショップを通じて提案しているのは、インテリアにテキスタイルを取り入れる「布のある暮らし」です。

「お気に入りの絵を飾るように、好きな布を壁に掛けるだけで、家で過ごす時間がぐっと心地よくなります」。布は暮らしに寄り添う存在。季節や気分に合わせて楽しみ、その後はバッグや洋服などを仕立て、形を変えながら長く使い続けることができます。

朗らかな人柄で、アーティストや地域の人たちを魅了する伊藤さん。プロデューサーとしてテキスタイルの仕事に情熱を注いでいる
壁にはテキスタイルが飾られている
展示会がないときにも、常にテキスタイルが飾られている。伊藤さんの暮らしに、布の彩りは欠かせないもの
天井が高く、開放感のある空間
天井が高く、開放感のある空間。設計時から、自宅兼ギャラリーとして開放することを想定していた
「Casa de paño」のプロダクツたち
Casa de pañoが主催する「LOCAL Textile project」のプロダクツたち。県内産の花をモチーフにした靴下も

自宅の一階を開放するギャラリーは、そんな「布のある暮らし」を伝える場所。子育て中の母でもある伊藤さんは、テキスタイルデザインの面白さや布文化を子どもたちにも伝えたいと考えています。「ファストファッションが身近な今だからこそ、手仕事の面白さを知ってほしいんです」。

ギャラリー運営と並行して行なっているもう一つの事業が、地域の自然や暮らしの風景を「もよう」として描き、日常の布製品へと落とし込む「LOCAL Textile Project(ローカル・テキスタイル・プロジェクト)」です。

出身地である鎌倉周辺を題材にした「海辺のテキスタイル」には、地元で愛される店や名産品、トンビに食べ物をさらわれるなど海辺ならではの光景などが描かれています。「三浦野菜もよう」のキッチンタオルには、三浦半島の土地の豊かさや畑の魅力を込めました。

「海辺のテキスタイル」のサコッシュ
鎌倉のモチーフが詰まった「海辺のテキスタイル」の巾着バッグ。持ち歩くだけでなく、飾っておきたくなる愛らしさ
ペットボトルが入るサイズ感
ペットボトルが入るサイズ感、持ち歩くときにちょうど良いひもの長さなど、使いやすさにもこだわっている
話が止まらない伊藤さん
制作にまつわるエピソードになると、話がつきない伊藤さん。取材した土地や協力してくれた人々への愛があふれ出す
三浦大根のキッチンタオル
人気商品のひとつ、三浦の大根もようのキッチンタオル。取材時に聞いたエピソードや心にふれた風景が詰まっている

作品づくりで何より大切にしているのは、地域の人たちとの「対話」です。「収穫のときだけ訪ねても、表面的なデザインになってしまう。苗を植えたり、明け方の受粉作業を見させていただきながら話を聞くことで、本質が見えてきます」。人々の街を愛する思い、農産物にかける情熱に耳を傾ける徹底的な取材が、作品に力を与えています。

「私たちのつくるプロダクツには、ちょっぴり暑苦しいくらいの背景があるんです」。そう笑う伊藤さんは、百貨店や地域のイベントなどで商品を手渡す際、取材を通して出会った人々や地域の物語を伝えています。

こだわりの「三浦大根専用バッグ」
三浦市農協の出荷規格に沿った三浦大根が持ち運べる、こだわりの「三浦大根専用バッグ」も制作。「三脚のサイズにぴったり」とプロのカメラマンが絶賛するなど、愛用者は幅広い
ギャラリー兼リビング・ダイニングの大窓から豊かな緑が見えるのも雪ノ下ならでは。都心にはない、深呼吸したくなる空間
伊藤さん
インタビューに、丁寧に答えてくださる伊藤さん
玄関正面の大きな窓には、伊藤さんがキュレーションしたさまざまなデザイナーのテキスタイルを月ごとに掛け替えている。季節ごとに表情を変えるその景色は、近隣住民の楽しみにもなっている

「生活の中で使う布だからこそ、できることがある。これからも、生活に身近な布をフィルターに、まだ知られていない地域の魅力を掘り起こしたり、地元愛を共有できたら」と伊藤さん。発売後も、お客さまや取り扱い店舗の声を丁寧にくみ取りながら、商品を企画しています。

誰かの記憶や土地の風景を織り込んだ一枚の布。そこから生まれる物語は、今日も誰かの暮らしに寄り添っています。

テキスタイル研究所 Casa de paño


◎住所/〒248-0005 鎌倉市雪ノ下
(※完全事前予約制。予約確定後に詳細な番地をご案内いたします)
◎アクセス/鎌倉駅より徒歩15分(鶴岡八幡宮より徒歩3分、神奈川県立近代美術館 鎌倉別館近く)
◎問い合わせ/公式HP、またはメール:info@casadepano.com にて
◎営業時間・定休日/ 不定
(※企画展・ワークショップ開催時、および事前予約枠のみ営業。詳細は公式HPをご確認ください)
◎ホームページ/https://www.casadepano.com/ 
◎インスタグラム/https://www.instagram.com/casadepano_studio/


いつも目にしている風景がもっと愛おしくなる、そんなイラストを描いてくれるほりはるさん。鎌倉という場所で見つけた、仕事とアートについてお話を伺いました。

ほりはるさん

鎌倉の店や人を描く、繊細なペン画イラストが人気のほりはるさん。企業の商業イラストや地域のアートプロジェクトなど幅広く活動し、「かまにゃん」の生みの親としても知られています。

ほりはるさん
ナチュラルで快活な笑顔が魅力的なほりはるさん。インタビューは、陽光が差し込むご自宅兼アトリエのリビングルームにて
ほりはるさんの仕事の一部
ほりはるさんの仕事(イラストレーション)の一部。ホテルのポストカードやかまにゃんも
本棚
本棚には、ほりはるさん夫妻がセレクトした愛読書や思い出深い仕事の数々が、いつでも手に取れるように飾られている
ほりはるの鎌倉仕事図鑑
鎌倉ゆかりに描いた「ほりはるの鎌倉仕事図鑑」。自らインタビューをし、文章も書いた

ほりはるさんは、仕事のスタンスをユニークな比喩で表現してくれました。 「作品がコーヒーなら、お客さまが豆で、自分はフィルターなんです」。クライアントの持つ魅力や熱量という名の「豆」を、自分という「フィルター」を通して丁寧にこし、至福の一杯として世の中にドリップする――そんな誠実な姿勢で、ペンに力を込めます。

今でこそ飾らない笑顔を見せるほりはるさんですが、かつては深い生きづらさを抱えていた日々がありました。人との関わりに疲れ、電車に乗れなくなったり、出勤前に発声練習をしてから仕事へ向かったり。見えないところでもがきながら、毎日をやり過ごしていたといいます。

そんな彼女を変えたのが、鎌倉という街と「人」との出会いでした。ほりはるさんは言います。「鎌倉には、自分の『好き』にまっすぐ生きているすてきな人が本当に多いんです」。

カフェ エチカ
コロナ禍に訪れた「カフェ エチカ」は、ほりはるさんにとって自分の個性を愛するきっかけの一つになった
愛猫の「イズ」
愛猫の「イズ」。ほりはるさんの夫が伊豆半島で出会い、家族として迎え入れた
1日1ページずつ続けた絵日記
イラストレーションを仕事にする前、ほりはるさんが自分を支えるように1日1ページずつ続けた絵日記。精緻な絵と文でつづられている
自宅兼アトリエ
自宅兼アトリエの窓からは、広い空が見える

転機のひとつはコロナ禍のある夜。ほとんどの店がシャッターを閉め、人影もまばらな小町通りでたどり着いたのが「カフェエチカ」でした。ドアを開けると、初めて出会った店主の千田さんは 「こんなときに来るなんて、君は変な人だね」と一言。そして、「店を開けてる僕も、変な人なんだけどね」と続けました。

街の人の自由な生き方に感化され、心にかかっていた鍵がすっと外れました。眠っていた本来の自分らしさを、ほりはるさんは一歩ずつ掘り起こしていったのです。

こうして取り戻した自由な感性から生まれたのが、ライフワークであるアート活動「ひとにぎり」です。

地元の海辺で拾った石は一切磨かず、自然の形や模様をそのまま生かして、下描きなしでアクリル絵の具を走らせます。「主役はあくまで石。絵はおまけ」。石の模様からイチゴを、丸みからハンバーガーを。計算も狙いもなく、形が語りかけてくるものに手を貸す感覚です。どうしてこんな絵を?と自分で驚くこともあるそうですが、「不思議と、その作品を必要とする人の元へ届くから大丈夫」。コミュニティーマーケット「鎌人(かまんど)いち場」では、多くの人が「私の石」を見つけに足を止めます。

玄関の一角で「ひとにぎり」を描くほりはるさん
「ひとにぎり」を描くほりはるさん。実はこの場所、玄関の一角。ちょっと奥まった隠れ家感と、月明かりの入る天窓がお気に入り
「ひとにぎり」
拾ってきた石に小さな絵を添えて仕上げるアート作品「ひとにぎり」。コミュニティーマーケット「鎌人いち場」などで、手に取る人との会話を楽しみながら販売している
「何を描こうかな」と考える時間が楽しい
石を眺めたり、手のひらで転がしたりしながら「何を描こうかな」と考える時間が楽しいとのこと。描くときは、インスピレーションに導かれて一気に仕上げる
自宅兼アトリエ外観
自宅兼アトリエの窓からは、広い空が見える

たどり着いた鎌倉で、ほりはるさんは今日も、人と人をつなぐ温かな物語を紡いでいます。

アーティスト・イラストレーター ほりはる

◎住所・アクセス・電話/ 非公開(鎌倉市内を拠点に活動)
◎営業時間・定休日/ なし(フリーランスとして活動、個展やイベント等の会期に準じます)
◎インスタグラム/ https://www.instagram.com/hahihuhe_horiharu24/
◎イベント情報/ ― ほりはる展 vol.2 ― 食べるは、生きる。7月17日(金)〜20日(月・祝)11〜18時(最終日17時まで)水平線ギャラリーにて開催
〒248-0012 鎌倉市御成町5-6-1B(鎌倉駅西口から徒歩3分)


後藤 麻希子

鎌倉Styleナビゲーター

後藤 麻希子

Makiko Goto

鎌倉エフエム「後藤 麻希子のSmile Saturday」パーソナリティー ほか


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気が向いたときに、そっとのぞいてみてください。

8 COLORS at 茅ヶ崎市

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