熊澤酒造/mokichi cafe
酒造りを守るために、米作りを守る
森の中の酒蔵です。
お酒が入るタンク。
敷地内には農家の直売も。
地元食材も活用するクラフトビール
「湘南ビール」の醸造所へ
人気のクラフトビール「湘南ビール」の醸造所は、熊澤酒造の入口すぐ、草花のアーチの横にありました。定番であるピルスナー、シュバルツのほか、季節に合わせて年間40~50種類のビールが醸造されています。最近は、神奈川県産の夏みかん、レモンなど柑橘類を使ったビールも好評です。ひとつのタンクから、瓶ビール6000本分ぐらいが作られるそうです。
ビール醸造所のすぐそばに、野菜のかわいいマルシェがあるのを発見。ランチタイムの時間に「モキチグリーンマーケット」として、茅ヶ崎や藤沢の生産者が日替わりで直売をしているそうです。この日は茅ヶ崎市堤で無農薬野菜やハーブを育てている農園が出店をしていました。農園直送の可憐なお花に、心が和みます。
蔵元直営の美食がいっぱい
古民家を移築した熊澤酒造のカフェ
蔵元のある茅ヶ崎市香川をはじめ、茅ヶ崎駅前や藤沢、鎌倉にも日本酒やクラフトビールを楽しめるレストランを展開している熊澤酒造。今回は、酒造所と同じ敷地内にある「mokichi café」でひと休みです。
築200年の古民家を移築した建物で、軽食やスイーツがいただけます。もちろん、敷地内の醸造所から直送される湘南ビールもラインナップしています。
ヴルスト特製ホットドッグは、パンもソーセージも自家製で、小麦や肉の味をしっかり感じる重厚なおいしさ。アンティーク調の家具に身を委ねながら、ふんわりしたくちどけのシフォンケーキや入れたてのコーヒーを味わい、ゆったりと至福の時間が過ごせます。
シフォンケーキはふんわりくちどけ。
アンティークなインテリアに身を委ねて…。
パンもソーセージも自家製。
優しい笑顔の中に情熱を秘める、杜氏の五十嵐哲朗さん
つい入ってみたくなります。
木もれ日の庭で。
茅ヶ崎・寒川で酒米を作ろう
ゼロから稲作に挑戦
熊澤酒造で杜氏を務めている五十嵐哲朗さんに、日本酒「天青」などを作っている酒蔵を案内していただきました。150年以上の歴史を持つ酒蔵では今、酒造りに使う酒米(酒造好適米)を近隣で育てる「熊澤酒造酒米プロジェクト」が進行しています。
熊澤酒造が地元産の酒米へ回帰を始めたのは、2012年のこと。創業140周年の記念に、地元のうるち米「キヌヒカリ」を使ってどぶろくを作ったことがきっかけになりました。
その後、2020年に「自分たちの手で酒米を育てよう」と本格的にプロジェクトが始動。熊澤酒造の裏手にある10アールの田を借りて、米作りを始めました。
とはいえ、リーダーを務める五十嵐さんをはじめ、全員初めての米作りです。「知り合いのおじいちゃんにアドバイスをもらいながら、手探りで進めました」と五十嵐さん。水の確保やジャンボタニシの襲来に奮闘しつつ、収穫までたどりつきました。
その後、遊休農地を任されるなどの縁もあり、五十嵐さんたちは耕作面積を増やしていきます。23年秋には、茅ヶ崎市芹沢・赤羽根、寒川町の田んぼで、合計3.5ヘクタールの収穫を見込んでいるとのこと。さらに藤沢市や横浜市などの協力農家が生産する酒米も合わせると、地産地消で賄う酒米は、合計で12ヘクタールとなります。
「熊澤酒造で使う酒米の40%ほど、一升瓶3万6000本分の量を、県内産で賄える見込みとなりました。まだまだこれからですが、時間がかかっても100%地元産となるよう取り組みを進めていきたい」と五十嵐さん。来年には蔵元の敷地内に精米所を建設し、米の削り方も究めていきます。
現在は、五百万石、雄町、山田錦、春陽の4種類の酒米を育てています。一次産業の可能性を広げる手伝いがしたい、と大きな夢にチャレンジをしています。
日本酒の未来を守りたい
米作りに奮闘する杜氏の想い
酒造りの要、杜氏を本職としている五十嵐さんが、どうして米作りに奮闘しているのか。耕作地を広げている想いを伺いました。
茅ヶ崎で酒米作りを始めた当初、五十嵐さんたちが痛感したのは、高齢化や後継者不足で危機に立たされている地元農業の現実だったそうです。そして、「後継者不足は、酒米の生産地である他県でも同じ」という問題に気づきました。
このままだと、ゆくゆくは酒米が手に入らなくなり、酒造りができなくなってしまうのでは…と危機感を覚えたことが、酒米の地元生産100%を目指す動機になっています。
そして、酒米を酒蔵近くの田んぼで作ることは杜氏としても魅力がある、と五十嵐さん。「熊澤酒造の日本酒は、海外市場へも展開しています。ワインの伝統の影響だと思うのですが、海外の人は酒の産地にとても興味があるんです」と教えてくれました。
海外販売向けの試飲会では、「この酒の材料は、どういう場所で、どのような畑で作られているのか」という質問が多いのだそうです。地元の畑で、地元の人たちと作った酒米で醸造しているというストーリーは、日本酒愛好家の心に響くはずです。
日本酒「天青」は、「雨上がりの空の青さ」という意味。潤いのある湘南の空にちなんで名付けられました。これからは、茅ヶ崎に広がる瑞々しい田と青空のイメージと一緒に、「天青」が世界に羽ばたいていくことになりそうです。
「想い」を話してくれた五十嵐さん。
歴史を感じる蔵。
雨上がりの空の青さをイメージ。
蒸留酒クラフトジン。
夏みかんのエール。
「妥協しないで続けます」と五十嵐さん。
蒸留酒ジンも100%茅ヶ崎産、ホップにも挑戦
地産地消への取り組みは続く
「熊澤酒造酒米プロジェクト」以外にも、地産地消の取り組みが続々と進んでいます。
レストラン「MOKICHI TRATTORIA」などで販売している「蒸留酒クラフトジン」は、熊澤酒造の日本酒醸造で出る酒粕を再発酵させ、蒸留して作っています。ジンの製造に欠かせないジュニパーベリーの木も、茅ヶ崎市内に植えました。今後は、完全な茅ヶ崎産のジンができる、と夢がふくらみます。
さらに、ビールの材料であるホップは輸入品が主流ですが、茅ヶ崎市堤・芹沢の畑で、自分たちでホップを育てています。2023年10月に開催するオクトーバーフェストで、茅ヶ崎産ホップを使ったビールを初披露し、限定販売する予定とのこと。
「全国に蔵元がある中、自分たちの酒づくりを妥協しないで続けることが大事」と、五十嵐さんは杜氏としての矜持を語ります。文字通り、地に足をつけた取り組みが今後も続きます。
熊澤酒造酒米プロジェクトの一環として、藤沢市の農家が作る酒米を100%使った日本酒「藤田熊醸(ふじたくまじょう)」が完成しました! 2023年夏から、わいわい市藤沢店や藤沢市内の酒店で販売中です。
藤沢産米100%の日本酒が完成!
熊澤酒造/mokichi cafe
◎営業時間/10:00~17:30 ◎定休日/第3・5火曜日 ※8・12月は休まず営業 ◎住所/〒253-0082 茅ヶ崎市香川7-10-7
◎Webサイト/https://kumazawa.jp//
☎0467-50-0202