浅野屋

映画の街、大船の面影を伝える
ふんわり衣の天ぷらが絶品のお蕎麦(そば)屋さん

鎌倉芸術館のすぐ近くにある昔ながらのお蕎麦屋さん、浅野屋。
創業100年を越える老舗で、現在は3代目のご夫婦が仲良く切り盛りしています。
かつてこの地にあった松竹の撮影所とのご縁も深く、大船に欠かせない味処(あじどころ)です。

こだわりの天ぷら蕎麦が絶品 夫婦の二人三脚あってこそ

ランチタイムは、白壁にのれんと昔ながらのお蕎麦屋さんの佇(たたず)まいを残す「浅野屋」さんへ。現在お店を切り盛りしている、荒敏彦(あら としひこ)さんと紀子(のりこ)さんご夫婦にお話を伺いました。

もり、かけといった定番から、鴨(かも)せいろ、鍋焼き、カレー南蛮など多彩なメニューがずらり。ほれぼれするような達筆のお品書きは、ご近所に住んでいる学校の先生が書いてくださったものだそうです。

浅野屋の看板メニューの天ぷら蕎麦は、車エビを使った本格派。今ではすっかり高級食材の車エビですが「昔からの浅野屋の味だから」とこだわり続けています。
何よりの特徴は、手のひらほどもあるふんわり広がった黄金色の揚げ衣。食べるとさくっとほどけるような、他にはない味わいです。「ふわっと花が咲くように揚げています」と心得を語ってくれたのは、奥さまの紀子さん。浅野屋では、ご主人の敏彦さんが蕎麦を打ち、つゆと天ぷらは紀子さんが担当、と仲良く分業しているのだとか。

喉ごしがよい、白く美しいさらしのお蕎麦に、伝統を受け継ぐつゆ・天ぷらを添えて、まさに二人三脚。どちらが欠けてもお蕎麦は提供できません。

子どもから大人までみんなに愛されるカレーは、特製のつゆとカレー粉から手作りしているルーがポイント。また夏限定の「薬膳蕎麦」は、じっくり揚げたナスと、ミョウガ・陳生姜(ひねしょうが)・青じそたっぷりの薬味が自慢です。「今年はいつから食べられるの?」と常連さんに急(せ)かされるほどの人気メニューです。

撮影所とともに大船へ
数々の映画人に愛された味です

創業102年という長い歴史を持つ浅野屋。もとは神田の名店で修行をした初代が、四谷にお店を構えていました。その後、蒲田から大船へ松竹撮影所が移転をしたことを機に、大船へと店を移しました。移転する際には松竹関係者が「浅野屋さんも、こちらにどう?」と土地を紹介してくれた、というエピソードから、撮影所の人々がお蕎麦の味に惚(ほ)れ込んでいたことが窺(うかが)えます。

「移転した頃は、お店から大船駅まで見渡せたほど、何もない土地だったそうです」とのこと。撮影所で奮闘するスタッフから名だたる俳優陣まで、昼夜となく出前の依頼が絶えず、大忙しの毎日。映画が無事に完成した際には打ち上げ会場ともなり、名作の舞台裏を支え続けました。

今でも、鎌倉芸術館で日本映画の上映会やトークショーがあるときには、山田洋次監督、俳優の倍賞千恵子さんなどが訪れて、お店の雰囲気とともに懐かしい味を堪能されているのだとか。「大船といえば、浅野屋のお蕎麦」と映画人たちに愛され続けています。

「借金のカタ」に差し出された絵画
大船の歴史を見守り続けます

浅野屋に掲げられた1枚の大きな絵が、映画の街として栄えた大船の姿を伝えています。
「この絵は、借金のカタに描かれたものだそうです」と敏彦さん。出前代や打ち上げ代の「ツケ」を溜(た)めてしまったある美術スタッフが「お金は払えませんが、代わりにこれで」と謝罪と共に差し出したのが、この絵という話。日本映画からそのまま飛び出してきたような、なんとも人情味が溢(あふ)れるエピソードです。

大船撮影所の広い敷地を、遠景の富士山が見守る温かな構図。絵の中央には浅野屋の建物も描かれています。今はない撮影所の姿を描いた貴重な資料として、松竹関係者から「譲ってもらえないか」と所望されたこともあるそうです。お店の宝物として、敏彦さん、紀子さんが大事に守り続けています。

現在は、地元に暮らす常連さんのほか、撮影所の跡地に建設された鎌倉芸術館への来訪者からも愛されている浅野屋。大船で育まれた味と文化を伝え続けています。

浅野屋

◎営業時間/11:00~20:00(L.O. 19:30)
◎定休日/木曜日
 ※営業時間・定休日は変更となる場合がございます。
◎住所/〒247-0056 神奈川県鎌倉市大船2-25-7
☎ 0467-46-2526

鎌倉Style vol.05
華咲く街×人情
秋を探しに 大船プチハイク!