machijikan | vol.05

コトブキ花園

コトブキ花園

園主の努力と優しさが、花苗も人も育む

販売期間中、お手製のパーゴラ付きお休み処はお花でいっぱいになるそう

販売期間中、お手製のパーゴラ付きお休み処はお花でいっぱいになるそう

野菜の苗を持つ園主の曽根寿英さん。「コトブキ」はお名前が由来とか

野菜の苗を持つ園主の曽根寿英さん。「コトブキ」はお名前が由来とか

ハウス前の寄せ植えが風に揺れて気持ちよさそう

ハウス前の寄せ植えが風に揺れて気持ちよさそう

春と秋だけオープンする
「よく育つ」と評判の花苗園さん

ガーデニング愛好者から「一度ここで苗を買ったら、もう他では買えない」と評判なのが、座間市栗原のコトブキ花園。1年のうち、お店を開くのは4月中旬~6月末と10月~翌年1月末だけ、というちょっと珍しいお店です。
販売期間を限定している理由は、お店に並ぶほとんどの花苗を、園主の曽根寿英(そね としひで)さんが自分の手で直生産しているから。以前は、販売と生産を並行していましたが「お店の対応に追われると、どうしても苗の質が落ちてしまう。それは良くないと思ったんです」と曽根さん。花苗の栽培にじっくり集中できる期間を設けることにしました。

販売期間になると、園内は曽根さんが作った花壇や寄せ植えで彩られます。「この苗なら、この間隔で植えるといいですよ」と曽根さんが実例を示しながら教えてくれるので、ガーデニング初心者でも庭造りのイメージを描くことができます。
園内には、曽根さん手作りの休憩スペースもあり、ゆったりした時間が流れています。ご近所の高齢者施設の方がお散歩の途中に訪れて、ホッと一息つくこともあるそうです。

曽根さんが手間と愛情をしっかり掛けた花苗は、長く咲いて育てやすい点が特徴です。良く育つ秘訣は?と訊ねると「やっぱり苗も、地産地消が良いんですよ」と教えてくれました。他県の産地で育てられた苗を買い付ける方法もありますが「『苗半作』という言葉もあるように、花苗でも野菜苗でも、お客さまの手元に渡ってからいかに元気に育つかが重要だと思います。さまざまな環境の中でも、それぞれの植物がベストなパフォーマンスを発揮してくれるかを考えて“丈夫な苗づくり”を心がけています。購入したときは元気でも、お客さんの家の庭で育たなくては意味がないから」と自家栽培にこだわっています。

ガーデニングなら、パンジーやビオラ、ガーデンシクラメン、なでしこ、ストックなど。1つのポットに2色のパンジーが寄せ植えになっている苗もあり、色合わせに迷うことなくどんな方でも手軽にお花を楽しめます。

ハクサイやキャベツの苗も並びます。10月から家庭菜園やプランターで野菜作りを始めるなら、イタリアン野菜のカリフローレやブロッコリー、リーフレタスなどがお勧めとのことです。

会社員を辞め、ゼロからスタート
「心のゆとり」を育てる仕事に

コトブキ花園がスタートしたのは、今から約30年前。それまで曽根さんは会社員をしていましたが、父の死をきっかけに開園を決意しました。
もともと曽根家は、先祖代々続く農家。稲作や露地野菜の栽培を行っていたほか、その昔は養蚕をしていた時期もあり、古い農機具が園内に展示されています。

受け継いだ農地をどう生かすのか、選択を迫られた曽根さんは、「これからはゆとりが大事になる時代」と考え、花苗園を立ち上げることを決意しました。自宅や畑地が大きな道路に面していたことから「せっかく良い場所をご先祖様が残してくれたのだから、直売に力を入れよう」と経営方針を立てて、ゼロから花苗農家・販売の勉強をスタートしました。
「地域の人、お客さんに支えてもらって、ここまで来ました」と曽根さんは感謝の言葉を忘れません。開園したばかりの頃は失敗も多かったそうですが、そのたびにお客さんから励まされて続けてきました。「励まされると、ついがんばっちゃう」と笑顔で語ってくれました。

今ではプロの農業者にも野菜の苗を販売しています。コトブキ花園の苗の品質が認められ、地域の農業を支える存在になりました。
ちなみに、苗にプロ用・店頭販売用の区別はないとのこと。コトブキ花園に来れば、一般の人でもプロと同じ花苗・野菜苗を買うことができます。

大八車や糸車、田んぼで使ったカンジキなど、受け継がれた農機具がオブジェになっています

大八車や糸車、田んぼで使ったカンジキなど、
受け継がれた農機具がオブジェになっています

ハウス内は、秋の直売に向けての準備が進んでいます

ハウス内は、秋の直売に向けての準備が進んでいます

オブジェにかかる看板は、職業体験に来た生徒さんからのプレゼント

オブジェにかかる看板は、職業体験に来た生徒さんからのプレゼント

うれしそうな眼差しで生徒さんとの交流を語る曽根さん

うれしそうな眼差しで生徒さんとの交流を語る曽根さん

子ども達に伝えたい、花のこと
優しい気持ちが芽生える、育てる

コトブキ花園では、20年以上にわたって近隣の小・中学校の職業体験や出前授業など「花育」に携わっています。体験に来た子ども達は、苗の世話や出荷準備を一生懸命手伝ってくれるそうです。
「花は心の栄養。花を育てることで、優しい気持ちが芽生えます」と曽根さん。例えば小学校で毎年行っている「パンジー教室」。5年生全員が卒業生のために小さな苗から育てています。一人ひとりが育てた花に同じものは無いけれど、誰かのために、何かのために、皆が気持ちを一つにして花を育てること。「競争ばかりの世の中だけど、互いに助け合ったり、認め合う価値観も大事にしてほしい」と意義を語ります。植物の世話をすること、咲いた花をきれいだと感じることが、子どもたちの心の栄養となってくれればいい、と願っています。
先日、職業体験に来てくれた中学生3人が、再びコトブキ花園を訪ねて来ました。「修学旅行に行ってきたよ!」と曽根さんにお土産を持ってきてくれたそうです。「うれしくてね。子ども達に、いい体験を残してあげられたかな」と曽根さんは目を細めます。

父が残してくれた言葉は
「農家は、毎年一年生」

曽根さんに、自宅で花を育てるコツについて伺ったところ、やはりポイントは水やりとのこと。「適切なタイミングで、適切な量のお水をあげることができると、植物もだんだん生きる力が湧いてきます」と教えてくれました。大事なのは、自分の生活のリズムではなく、植物の方のリズムに合わせること。お客さんにも、「ゆっくりお花と向き合うと、お水が欲しいかどうか分かりますよ」と極意を伝えています。

植物それぞれにじっくり向き合って世話をすることは、プロとして30年の経験を持つ曽根さんでも試行錯誤の日々なのだとか。
曽根さんのお父さんは「農家は、毎年一年生だ」とよく言っていたそうです。「去年と同じように世話をしても、同じようには育ちません。毎年、目の前の植物・気候をじっくり見極めることが必要」と、曽根さんは父の言葉を噛みしめています。

父の背中を思い出しながら、自らの手で切り開いた花苗栽培の道。お客さんや種苗会社の担当者と対話をしたり、近隣の直売所に行って新しい野菜の品種を検討したり、曽根さんは今でも熱心に研究を続けています。
「自分の育てた花をお客さまに納得して買ってもらい、“とてもよく咲いたよ”の言葉を聞けることは、直売をやってきた生産者の醍醐味ですね」と曽根さん。期間限定のコトブキ花園のオープンを待ちわびているお客さんのために、今日も小さな苗と真剣に向き合っています。

水も愛情もたっぷり受けた日なたのポットは、バテることなく元気そのもの

水も愛情もたっぷり受けた日なたのポットは、バテることなく元気そのもの

園内は、曽根さんの優しさに満たされていました

園内は、曽根さんの優しさに満たされていました

コトブキ花園
◎直売期間/<春~夏期>4月中旬~6月末・<秋~冬期>10月~翌年1月末
◎営業時間/9:30~16:00 ◎定休日/水・日曜日 ◎住所/〒252-0014 神奈川県座間市栗原中央6-2-10
◎Webサイト/https://www.0462.net/shop_detail/detail.html?shop_id=645 ☎046-253-9803