
鎌倉七福神めぐり
〜北鎌倉・「私」を取り戻す時間〜
歴史と自然が調和する古都鎌倉。この街には、かつて武家文化とともに栄えた禅の精神が今なお息づき、訪れる人々に深い安らぎをもたらします。
「鎌倉 Style」では、鎌倉FMで活躍する後藤麻希子さんとともに、地域に根ざした古刹(こさつ)の教えや人々の営みを丹念にたどり、古都の真髄とコアな魅力を深掘りします。
今回は、毎年多くの人が足を運ぶ「鎌倉七福神めぐり」に焦点を当て、特に静かなたたずまいの北鎌倉を巡ります。福徳を司る布袋(ほてい)様がいらっしゃる浄智寺への道を起点に、古都の谷戸に息づく「想い」をご一緒にひもといてみましょう。
第一話
創業60年の「門」をくぐるということ
JR横須賀線「北鎌倉駅」の西口を出てすぐ。訪れる人々を静かに迎え入れるのが喫茶店「門」です。1966年(昭和41年)の創業から、今年(2026年)、創業60周年(還暦)を迎える歴史あるお店です。2025年9月にマスターが石山修一さんに代替わりしました。

「以前は妹がオーナーで、友人などが引き継いでいたのですが、そろそろ血縁者にという話で私に回ってきまして。小町通りにあった姉妹店で35年経験があったので、『じゃあ、やってみるか』」と語る石山さん。
店名である「門」の由来は、創業者(石山さんの奥様のお母様)が文学少女であったことから、夏目漱石の同名の作品に着想を得てつけられたといいます。また、看板の「門」の文字を揮毫(きこう)したのは、円覚寺の元管長である朝比奈宗源(そうげん)師です。
「宗源師は鎌倉の他のお店の看板もたくさん揮毫してらっしゃいます。当店の場合は、丸に四角(○に□)で『円覚』を意味する洒落た落款が添えられていて、とてもユニークな方だったと聞いています」と石山さんが教えてくれました。余談ですが、この「門」の書体は、かつて時代劇『水戸黄門』の題字に使われた文字と勢いや跳ね具合が近い、と後に聞かれたそうです。その力強い筆致は、駅前の「門」構えにふさわしい風格を湛えています。



右)円覚寺の元管長・朝比奈宗源師が揮毫した書。 丸に四角(円に角)で『円覚』を意味する洒落た落款が添えられています


白鷺池を望む、
60年が刻んだレトロモダンな空間
そして、この心地よい空間を造り上げたのは、地元の建築家、故 榛澤敏郎氏です。榛澤氏は、北鎌倉の静かな街並みの随所に、この土地の風情を深く汲んだ建物をいくつも残しています。円覚寺の白鷺池を望む窓際の席は、駅前でありながら、自然の借景を生かした贅沢な空間です。
店内は、10年前に設備更新やモルタルの塗り替えが行われた、清潔感のあるたたずまいです。しかし、壁や梁の木材は創業当時からのもので、60年の時を刻んでいます。石山さんいわく、昔は喫煙が可能だったため、この木目の美しい風合いは、タバコの煙が年輪のように付着して生まれたものだとか。カウンター横の囲炉裏のようなスペースや、黒と白のシックな対比が、古いだけではないレトロモダンな空間美を湛えています。
ネルドリップが包む、
濃くて優しいコーヒーの味わい
「門」のコーヒーの神髄は、創業以来変わらない「炭火焙煎」と「ネルドリップ」という手法にあります。豆は神戸の萩原コーヒー店から取り寄せた特注品です。石山さんは、この変わらない「門」の味こそが、お客さまの心をそっと解きほぐすために大切だと感じています。
「『門』のコーヒーは、炭火焙煎なのでどちらかというと苦みが強めなんです。その濃さに合うようにと、チョコレートを添えることにしました」
このチョコレートとコーヒーのペアリングは、石山さんの発案。硬めのビターなチョコレートは、コーヒーの苦みと甘みをより引き立て、お客さまからもおススメだと好評です。
ネルドリップで入れることで、苦みが優しく包まれ、マイルドな甘みが引き出されます。マスターは、手間がかかるこの入れ方を頑なに守ります。「紙フィルターだとどうしても、油分や雑味が抜けすぎて『門』本来の味が出ない。このネルでゆっくり抽出する時間が、お客さまに濃いけど優しい、ホッとする時間を提供できる鍵なんです」。








地元との絆、
そして北鎌倉への思い
石山さんがマスターに代替わりし、地域に温かい交流が生まれました。
「代替わりの前は、観光で訪れるお客さまが中心になっていたようですが、私が店を引き継いでからは、昔ながらの地元のお客さまも顔を出してくれるようになりました。ご近所さんのご主人、お蕎麦屋さんや日本料理店のお母様など、お互い顔見知りだけど話したことがなかった人たちが、親しく話せるようになりました」
「門」が、地元の人と観光客、そして新旧の住民をつなぐ「縁(えん)」の場所としての役割を担っていることを、石山さんは静かに喜びます。
また、「門」では、喫茶営業後の時間を利用し、夜の北鎌倉の活性化につながる新しい試みも行われています。きっかけは、以前、お子さんの体調不良で急きょ店に立ち寄ったワイン専門家の石田陽介さんが、この空間を気に入り、少人数制のワインセミナー開催を提案したことでした。石山さんは、この貴重な縁を活かし、夜(18時30分から21時30分)に昼間とは違う北鎌倉の魅力を提案する場として、場所を提供しています。
石山さんは、50年近く北鎌倉に暮らしています。「住んでみてよかったことは、この街がゴミゴミしてないことですね。上品な方やお坊さま、和服の女性、学生さんが行き交います。セカセカせず、やわらかな時間が流れているのが、北鎌倉の魅力だと思います」と語ります。
変わらない心地よい時間と、
また帰りたくなる場所
「門」は、観光客はもちろん、地元の人々の一日を静かに始める始発点です。温かいコーヒーを提供し、一日の始まりを支えます。「コーヒーを1杯ずつ入れ、お客さまと話せる。サービスに力を入れられる今のスタイルで、ゆったりとした特別な時間を過ごしていただければうれしいです」と石山さん。北鎌倉を訪れる皆さまにとって、この「門」が親しまれるような、温かいお店であり続けること。それが、石山さんの願いです。

喫茶店 門
◎住所/〒247-0062 鎌倉市山ノ内506
◎アクセス/JR横須賀線「北鎌倉駅」西口出て左側
◎電話/0467-23-5500
◎営業時間/10:00〜17:30
◎定休日/不定休
◎ホームページ/https://www.instagram.com/kitakamamon/
第二話
古都の清閑へ。
「たからの庭」に息づく創造の歴史
鎌倉五山第四位の格式を持つ臨済宗円覚寺派浄智寺(じょうちじ)。その境内地の奥深く、静かな谷戸(やと)にひっそりとたたずむシェアアトリエが、「北鎌倉たからの庭」です。

世俗の喧騒から隔絶されたこの場所は、荒廃していた谷戸を再生して生まれました。陶芸や茶道といったさまざまな文化活動の拠点として活用されていて、訪れる皆さんが日常を離れ「本来の自分に帰る」ことができる創造の場を提供しています。
今回は、立ち上げ当初からこの場所に関わる作家の倉橋羽衣(うい)さん、そして陶芸作家の川北秀一郎先生にお話を伺いました。




谷戸の奥にたたずむ、
禅語が導く「宝」の場所
JR北鎌倉駅西口から徒歩10分。
観光客で賑わう通りを抜けて、浄智寺へと続く坂を上がると、一気に空気が変わります。辺りには人工物が少なく、鳥や虫の声しか聞こえない、鎌倉の良き時代の風情が残ります。この谷戸の奥に、「北鎌倉たからの庭」はあります。
この場所がある山は、浄智寺の山号である「金寶山(きんぽうざん)」と呼ばれることから、その「寶(たから)」の字をいただいて「たからの庭」としました。さらに、浄智寺の山門にある「寶処在近」(ほうしょざいきん=大切なものは身近にある)という禅語にもちなんでいます。創設者である島津克代子さんは、「鎌倉らしいライフスタイルを発信するシェアアトリエ」としてこの古家を再生させました。
85年の時を刻む、
薪窯と創造の歴史
そして、この地が特別なのは、その歴史にあります。戦前から戦後にかけて、ここは女性陶芸家・久松昌子さんが作陶工房として使用し、著名な文化人たちが集うサロン的な役割を果たしていました。敷地内には、当時の大きな薪窯(まきがま)や赤煙突が「産業遺産」として今も残り、ものづくりの歴史を静かに伝えています。この薪窯は、現在も年に1〜2回火が入れられ、この場所が創造の拠点として息づいている確かな根拠となっています。



北鎌倉の自然を編み込む、
倉橋さんの手仕事
「北鎌倉たからの庭」の活動を支える1人、作家の倉橋羽衣さんは、アトリエに集まる多彩なワークショップの中でも、特に自然の素材を活かした創作活動を展開しています。倉橋さんが大切にしているのは、「地産地消」の考え方です。「できるだけ身近な、手に届く範囲のもので創作したいと思っています。最近は、庭に生えているカラムシ(苧麻)という植物から繊維を取って糸にする手仕事を始めました。また、レモングラスを使った亀飾りなど、身近な素材で作品を作る楽しさを伝えています」
カラムシで制作した作品は、その場で引いたばかりの時と、1年後とでは色が大きく変化し、経年変化も楽しめるのが魅力だといいます。この自然との対話のような創作環境は、「鳥の音や風の音に癒やされる」と倉橋さんの創作意欲を掻き立てています。
マインドフルネスを育む、
コミュニティーの熱
手仕事は時間がかかるものですが、陶芸や染めのワークショップなど、ここでは参加者が自分の指先の作業に没頭できます。「年齢を問わず、1つの作業に集中することは、まさにマインドフルネス(※1)な時間です。現代はスピード感が重視されますが、手仕事は時間がかかるもの。だからこそ、ここでスッと元のゆっくりした時間に戻って、リセットしてもらう役割を担っていると感じます」と倉橋さん。参加者からは「都会の疲れが癒やされた」という声が多く寄せられており、「土に触れてものを作る感覚や、この身近なものから生まれてくるものの循環を皆さんに伝えたい」という思いが、訪れる人々の心を解きほぐしています。
(※1)「今、この瞬間」に意識を向け、自分を評価せずありのままに受け入れる心の整え方
倉橋さんは、創作活動だけでなく、地域の交流の場としても「たからの庭」を支えています。毎月第4日曜日(※2)に開催される「手創り市・陶器市」には、鎌倉市内外から多くの作家と来場者が集まり、ものづくりの熱を発信しています。メンバーが集まり庭の維持管理を行うお掃除会などを通じて、この貴重な環境が守られ、コミュニティーの絆が育まれています。
(※2)開催日程など詳細は、ホームページをご確認ください



右)敷地内に残る古井戸と窯の遺構。コミュニティーの絆によって守られ、ものづくりの熱を今につなげています




右)庭で摘んだ葉っぱのシルエットが転写されたうつわ。世界に一つだけの、わびさびを感じる作品が完成します

https://www.takaranokama.com
歴史の継承と、
葉脈を写す陶芸体験
この場所のわびさびを感じられる環境は、創作者にとって感性を豊かにする要素が多く、「北鎌倉は、海側の鎌倉とは異なる静かでしっとりとした雰囲気を持つエリア」だと倉橋さんは語ります。
敷地内の陶芸小屋「たからの窯(かま)」では、川北秀一郎さんら4名の陶芸作家が講師となり、さまざまな陶芸ワークショップを開催しています。初心者でも気軽に体験できる「葉っぱのうつわ」は、ろくろを使わず、土を型に押し付けて成形し、庭で摘んだ葉っぱの葉脈の模様を器に転写します。このシンプルな手法により、幼稚園児から大人まで、誰でも世界に一つだけの器を作ることができます。また、陶芸体験スペースの傍らには昭和初期に作られた薪窯が静かにたたずんでいて、川北さんは、「同じ作品は二度と作れない」と薪で焚く陶芸窯の表現の面白さを、穏やかな表情で語ってくださいました。
過去から未来へ、私に帰る道
倉橋さんは、最後に読者に向けてメッセージを寄せてくれました。「寶処在近、北鎌倉の駅近にもまだこんな静かで豊かな場所があったんだと感動されると思います。ギャラリーは金、土、日、祝にオープンし、陶芸体験はほぼ毎日開いています。ぜひ、まずはふらりとお訪ねいただき、一旦肩の荷を下ろしてリセットし、心も体も生き生きできる時間を過ごしていってください。」
「北鎌倉たからの庭」が位置する浄智寺谷戸は、かつて修行僧たちが生活していた歴史を持ち、まさに禅の気配を感じる場所です。
この地で、戦前から受け継がれる文化に触れ、手仕事を通じて心身を調える静かなひとときが、現代において「本来の自分に帰る」道筋を与えてくれるでしょう。



北鎌倉たからの庭
◎住所/〒247-0062 鎌倉市⼭ノ内 1418
◎アクセス/JR 横須賀線「北鎌倉駅」⻄⼝から徒歩 10 分
◎電話/0467-25-5742(スタッフ不在時はつながりません)
◎たからの庭ギャラリー営業時間/毎週⾦・⼟・⽇と祝日 11:00〜16:00
※陶芸体験は毎⽇営業(要予約)
※その他イベントやワークショップの開催情報はホームページをご確認ください
◎ホームページ/https://www.takaranokama.com
https://www.instagram.com/takaranoniwa/
https://www.facebook.com/takaranoniwa/
第三話
歴史を刻む献上菓子
未来へ続く「松花堂」の誇り
北鎌倉駅西口を出てすぐ、古都の穏やかな空気に抱かれるようにたたずむ老舗和菓子店、北鎌倉 松花堂(しょうかどう)。大正時代から続く三代目の店主、大口健治(おおぐち けんじ)さんが、創業以来60年以上にわたり、変わらぬ味と製法を守り続けています。

松花堂の看板を支えるのは、献上菓子として知られる「あがり羊羹(ようかん)」です。水羊羹と煉り羊羹の間に位置する独特の生菓子として、多くの茶人や文化人に愛されてきました。今回は、大口さんに、その歴史と伝統を守り続ける職人のこだわりについて伺いました。



献上された誇り。
「あがり羊羹」の由緒
この松花堂のナンバーワン商品である「あがり羊羹」。その最大の特徴は、名前に込められた意味にあります。
「あがり羊羹」は、江戸時代に尾張徳川家へ献上された歴史を持ち、「上がり」という名前には、目上の人に差し上げる(献上する)という敬意と、縁起の良い意味合いが込められています。
元々は静岡の和菓子店が発祥ですが、一時その製法は途絶えかけたといいます。それを伝承した人が名古屋に来て、松花堂の先代へと伝承されました。戦前は名古屋でも複数の店で製造されていたそうですが、現在では1軒か2軒しか残っていない希少な品です。創業時から「あがり羊羹」を作るという祖父の志を受け継いだこの老舗は、その貴重な味と伝統を守り続けています。
「もっちり、とろける」
独特な食感の秘密と
材料へのこだわり
「あがり羊羹」は、水羊羹のようなみずみずしさと、煉り羊羹のような重厚感の、中間的な生菓子です。口に入れた瞬間のもっちりとした弾力と、舌の上でとろけていくような柔らかな口当たりは、他の羊羹では味わえない魅力です。
この独特の食感を生み出すのは、三代にわたり厳守されてきた製法と、材料への揺るぎないこだわり、そして店主のストイックな心構えです。初代からの教えとして、当店は「材料のランクを絶対に下げない」ことを徹底しています。安価な材料に頼ると味が変わってしまうため、原材料の選定と仕入れには一切の妥協がありません。




職人のプライドが守る、
限られた時だけの特別な味
気温や湿度の変化に影響を受けやすい生菓子を毎日同じ仕上がりで提供するため、大口さんは細心の注意を払い続けています。特に、春と秋しか作らない季節の商品は、冷めた時の硬さが重要になるため、製造にはプロとしての強い緊張感が伴うと言います。この心を込めた手間こそが、長年愛される「変わらない味」の核心です。「60年経っても変わらない」と長年の顧客から評される揺るぎない品質の証なのです。
この「あがり羊羹」は、生菓子であるため、鮮度を大切にしており、賞味期限は冷蔵保存で冬場は4日、夏場は3日と限定されています。だからこそ、この上質な味は、限られた時しか味わえない特別な和菓子として愛されているのです。
禅寺文化との深い繋がり
—円覚寺と「小鹿」
北鎌倉の地は、円覚寺や浄智寺をはじめとする禅寺が集中し、茶道の文化とも深い関わりがあります。「あがり羊羹」は、茶道羊羹として長い間愛されてきました。特に円覚寺との関わりは深く、前の足立管長の時代から、現横田管長に至るまで、お土産や贈答品として愛用されています。修行僧が帰省する際の土産としても使われるなど、地域文化に深く根付いています。
松花堂のもう1つの人気商品である「小鹿(おじか)」も、円覚寺の故事に由来します。これは小豆の蒸し菓子で、円覚寺で鹿が説法を聞いたという故事から名付けられました。見た目が鹿の背中の斑点に似ていることから名づけられ、お茶の先生の依頼により栗を入れたものも定番となり、秋から春にかけての季節商品として親しまれています。



右)足立前管長が、店舗移転30年前に記念として揮毫くださった書。献上菓子「あがり羊羹」の品質と老舗の歴史が、禅寺文化と深く結びついている確かな証です


一品に込められた
北鎌倉の歴史と心づかい
北鎌倉駅西口から徒歩1分という好立地にある松花堂は、駅を利用する方や観光客に対し、和菓子を通じて古都の歴史と落ち着いた時を伝える役割を果たしています。
大口さんは、創業以来、変わらない品質の和菓子を提供し続けることで、お客さまに「安心感」と「喜び」を届けたいと願っています。
また、お正月に限定販売している徳島産の貴重な和三盆糖を使用した落雁(らくがん)も、その確かな品質を伝える商品の一つです。 一般的な落雁とは一線を画す口溶けの良さが特徴で、7個入りの「LUCKY SEVEN」は、年始の縁起の良い贈り物としても皆さまから人気を集めています。
北鎌倉の静かな旅の思い出とともに、献上菓子としての由緒と確かな品質を持つ「あがり羊羹」を、大切な方への格調高いお土産や贈り物としてぜひお選びください。
老舗の味を守り、手間を惜しまず、職人としての矜持を持って和菓子を作り続ける松花堂。その一品一品には、北鎌倉の静かな時と、受け継がれてきた職人の誠実な想いが息づいています
北鎌倉 松花堂
◎住所/〒247-0062 鎌倉市山ノ内1340
◎アクセス/JR横須賀線「北鎌倉駅」西口から徒歩1分
◎電話/0467-22-6756
◎営業時間/9:00~16:00
◎定休日/月曜日
◎ホームページ/https://kitakamakura-shokado.jp/index.html
第四話
浄智寺が伝える阿弥陀三世仏の教えと
布袋様が授ける「寶処在近」
鎌倉五山第四位の格式を持つ臨済宗円覚寺派 浄智寺(じょうちじ)。北鎌倉の奥深い谷戸(やと)に抱かれた境内は、都市の喧騒から隔絶され、訪れる人々に「静寂の時間に癒やされる」と評されています。

ご住職の朝比奈 惠温(あさひな えおん)さんが特に大切にされているのは、この場所が持つ、人々が日々の忙しさを忘れ、心の安寧を取り戻すための「場」としての役割です。ここでは、訪れる人々が古都の歴史に触れながら、禅の教えを通じて心の静けさを得ることができます。




鐘楼門を越えて
曇華殿と阿弥陀三世仏が語る
時の真理
素朴ながらも趣深い浄智寺の象徴が、2階建ての鐘楼門です。この楼門には、今も大晦日(おおみそか)に除夜の鐘を響かせる鐘が懸けられています。俗世と仏道とを分ける「結界」の役割を担うこの門をくぐり、石段を登ると、その格式にふさわしい、空気が一変するような安らかな空間が広がります。
その先にたたずむのが本堂、曇華殿(どんげでん)です。この本堂に安置されるご本尊こそが、鎌倉の歴史を見つめてきた阿弥陀三世仏坐像(さんぜぶつざぞう)(県指定重要文化財)です。
この3体の仏様は、左から過去(阿弥陀如来)、現在(釈迦如来)、そして未来(弥勒如来)を表現しています。3体全てが如来の姿で並ぶのは全国的にも珍しく、朝比奈さんは、この阿弥陀三世仏が「時間(過去・現在・未来)」や「生き方」に関する深いメッセージを伝えていると考えています。この仏様を通して、過去にとらわれず、未来を案じすぎず、「今」を懸命に生きることこそが禅の教えであると静かに諭されます。
七福神・布袋様が伝える
「寶処在近」の真髄
浄智寺は、約40年前に始まった「鎌倉・江の島七福神めぐり」における布袋様(ほていさま)の札所です。未来の仏様である弥勒様(弥勒如来)と布袋様が同一視されていたことから、浄智寺が布袋様を担当しています。境内奥の洞窟に納められた布袋様の石仏は、福々しい姿で親しまれています。
布袋様のお腹をなでると福を授かるといわれていますが、その指し示すお姿こそが、最も重要な教えです。鎌倉・江の島七福神会会長も務める朝比奈さんによると、月を指して悟りの境地を示す禅の教えと同様に、訪れる人々に向けた「寶処在近(大切なものは身近にある)」というメッセージを伝えています。
「あなたが求めている良いものは、もうすでにあなたの中にあるのだ。それに気がつきなさい」
これは、「七難即滅七福即生」の教えに通じ、外部に福を求めるのではなく、自分自身の中に既に存在する宝に気づくことの大切さを教えています。
朝比奈さんは、「鎌倉七福神めぐり」について、御朱印をコレクションするのではなく、「その時の参拝の目的と思いを大切にするもの」と語り、心のこもった参拝を勧めています。なお、浄智寺では、通常のご朱印と七福神(布袋様)のご朱印の2種類をいただくことができます。





古都の清らかさを守る「甘露ノ井」
浄智寺の境内には、鎌倉十井(かまくらじっせい)の一つに数えられる「甘露ノ井(かんろのい)」が、参道脇の静かな場所に水をたたえています。
ご住職は、この井戸が茶の湯にも用いられたという歴史的な由緒を持ちながら、現代において非常に重要な役割を担っていることに言及しました。それは、災害などの非常時に、地域住民の生活を支える「命の水」として開放されることです。この清らかな水は、古都の静寂さと、禅寺が地域を見守り続ける揺るぎない姿勢を象徴しています。
禅寺と地域社会
鎌倉エフエムが担う役割
ご住職の朝比奈さんは、浄智寺の住職として地域に貢献する傍ら、鎌倉エフエム放送の社長も務めていらっしゃいます。これは、本連載でインタビュアーを務める後藤麻希子さんが活躍しているメディアでもあります。
朝比奈さんは、ローカルラジオについて、「地域の隅々にまで情報を行き渡らせる、きめ細かさ」こそが重要であると語られています。そして、住職としての立場から、お寺の歴史や禅の教えが持つ価値観を媒体を通じて発信することが、地域の人々の心の安心や豊かさにつながることを目指している、という認識を示されています。






文化活動の拠点
「北鎌倉たからの庭」が育む静寂
境内地の奥深くに位置する「北鎌倉たからの庭」。ここは、かつて関東大震災などで荒廃する以前、境内の谷戸の奥で、浄智寺にとってものすごく重要な役割を担っていた場所であったと推測されます。現在、その静かな歴史を継承するこの空間が、陶芸や茶道、ドラマのロケ地として多様な文化活動に活用され、お寺が地域に開かれ、文化的役割を果たそうとする姿勢を表しています。
朝比奈さんは、情報過多な現代社会において、禅の教えがもたらす心の豊かさとは「足るを知る」という境地であると示しています。浄智寺を訪れ、自分の中にある幸せや豊かさに目を向ける静かな時間を持つことが、何よりも大切なのです。
内なる宝の発見
北鎌倉という境地へ
浄智寺が北鎌倉の谷戸に伝え続ける禅の教えは、阿弥陀三世仏が示す「今を生きる」姿勢であり、布袋様が体現する「寶処在近(ほうしょざいきん=大切なものは身近にある)」という境地です。
ご住職の朝比奈さんは、この情報過多な現代社会だからこそ、外の成功や情報に惑わされず、「足るを知る」ことの重要性を説きます。
この浄智寺の教えが息づく北鎌倉の静かな街には、歴史ある喫茶店や献上菓子を守る老舗、そして未来へつながる創造の手仕事を育むアトリエなど、時代を超えて「今」を懸命に生きる静かな営みが存在しています。
この日々の営みこそが、「足るを知る」という真の豊かさを映す「寶処在近」の姿です。どうぞ、この静寂の地で、あなた自身の内に息づく普遍的な宝に気づき、心豊かな時間をお過ごしください。


臨済宗円覚寺派 浄智寺
◎住所/〒247-0062 鎌倉市山ノ内1402
◎アクセス/JR 横須賀線「北鎌倉駅」西口から徒歩8分
◎電話/0467-22-3943
◎開門時間/9:00〜16:30
◎拝観料/大人 300円 小人(中学生以下)100円
◎ホームページ/https://jochiji.com/

鎌倉Styleナビゲーター
後藤 麻希子
Makiko Goto
鎌倉FM「後藤 麻希子のSmile Saturday」パーソナリティー ほか


























