海外旅行者も、ご近所さんも
みんながゆったり集う「亀時間」

趣ある和室と、さりげないもてなしが
贅沢な時間を演出

四畳半の和室は、夫婦や友人同士、1人旅の方に人気の部屋。ちゃぶ台の上で愛らしくゲストをお出迎えしているツルニチニチソウは、櫻井さんが亀時間の裏庭から摘んできたものだそうです。

八畳間には立派な床の間があり、伝統的な和の風情。木目を生かした床柱や欄間、雪見障子など、日本建築の繊細な美しさが堪能できます。「リノベーションとはいえ、建具類はほぼ元の状態を生かしました。ちゃぶ台、茶釜なども、屋根裏部屋に眠っていたものをそのまま使っています。今では手に入りにくいものばかりですが、しっかり実用しています」と櫻井さん。

6人が泊まれるドミトリーは、押し入れなどを改造した2段ベッドが並ぶユニークな造り。ほの暗い照明と間仕切りの布が織りなす空間は、まるで秘密基地のようなワクワク感があります。ちなみに、この建物は宮大工によって大正末期に建てられたもので、もうすぐ築100年を迎えます。

入口付近にあるラウンジには、バーカウンターやドリンクコーナーがあり、ゆったりとした時間を過ごせます。宿泊者が自由に書き込める「宿帳」があるのもゲストハウスならでは。さまざまな世代、国籍のバラエティ豊かな筆跡を眺めていると、旅を楽しむ気持ちが伝わってきました。

海外放浪の話題になると、スリル満点のエピソードを次々と披露してくれる櫻井さん。「旅をすることが好きで、『一つの場所に住むなんて無理！』と思っていましたね」と若き日の価値観を話してくれました。
しかし、奥さまとの出会いでライフステージが変化したことが、ゲストハウスを作るきっかけになりました。「ゲストハウスなら、自分が移動しなくても世界中からお客さんが来てくれる。最高だと思いませんか？」と櫻井さん。国籍や年齢を超えて、いろいろな人が自由に集まれる空間を作ろう、と決意しました。

そんなときに出会ったのが、材木座の商店街の一角に眠っていた欅（けやき）造りの民家。住居からステーキ店に転身した後、15年以上空き家になっていました。ゲストハウスを作るなら銭湯の近くがいいと考えていたそうですが、その⺠家近くに旧鎌倉地域で最後の銭湯「清⽔湯」があり、条件が合致。いくつもの縁が重なって、ゲストハウス作りが本格始動します。

「日本で暮らしたいけど、今の日本の生活は、みんな急ぎ過ぎている。ゆったりとした時間の流れ、コミュニケーションなど、失われてしまいがちなものを取り戻したい」という想いを込めて「亀時間」と名付けました。
亀時間という宿名にちなみ、館内ではいろいろなところから亀モチーフのインテリアがひょっこりごあいさつ。世界各国から集まったどことなくユーモラスな亀たちが、旅人たちを見守っています。

「地元でとれた旬の野菜は、味が違う、生命力が違う、とお客さんもおっしゃいます。身土不二（しんどふじ）という言葉もあるように、栄養素だけではないパワーがあると考えています」と櫻井さん。新鮮な食材をシンプルに調理し、宿泊客に提供します。

「亀時間」の宿泊客は、朝一番に材木座海岸をお散歩することが多いのだとか。まっさらな砂浜で朝日を浴びて、のんびりと体を動かした後に、体に優しい朝ごはんを味わいます。 鎌倉で迎える最高の目覚めが、今日も旅を続けるエネルギーを満たしてくれます。